詠の映画ブログ

映画やアニメの感想など

【ホラー】ジョーダン・ピール監督新作『アス』感想と考察ー本当の怪物は「私たち」だ

こんにちは!詠です。

ジョーダン・ピール監督の新作ホラー映画『アス』を観ました。ドッペルゲンガーたちに日常を侵略される恐怖に、アメリカの社会問題を重ねた風刺的なホラーでした。

せっかくなので感想と考察をまとめたいと思います。

映画「アス」ポスター

『アス』

2019年アメリカ映画

監督・脚本・製作:ジョーダン・ピール

主演:ルピタ・ニョンゴ、ウィンストン・デューク

 

『アス』タイトルの意味

タイトルの「アス」はキックアスのass(おケツ)ではなくUs。意味は「私たち」です。
USと大文字で書くと「合衆国」を意味するUnited States(ユナイテッド・ステイツ)を連想します。これは恐らくダブルミーニングでしょう。
なぜなら『アス』はアメリカ合衆国が置かれた現実を風刺した作品だからです。

ジョーダン・ピール監督について

映画『アス』を語る前に、ジョーダン・ピール監督の作風について触れなければなりません。


ジョーダン・ピール監督は1979年1月21日生まれ。アメリカ・ニューヨーク市出身です。アフリカ系アメリカ人の父と、イギリス系の白人の母の元に生まれました。両親は離婚し、母の元で育ちました。


ジョーダン・ピール監督は元々はコメディアンです。コメディ番組でキーガン=マイケル・キーと意気投合し、お笑いコンビ「Key & Peele」を組んで動しています。


この「Key & Peele」のコント、めちゃくちゃ面白くてアメリカでも人気です。彼らを一躍有名にしたのは「オバマ大統領の怒りの通訳」です。(英語が分からない方でもきっと笑えるので、Youtubeで是非見てみてください)


『アス』を理解する上で参考になる作品を何作かご紹介します。

こちらは「Make A Wish(願い事をして)」というコントです。
ジョーダン・ピール監督演じる難病の少年(めっちゃ薄気味悪い)の元に「病気の子どもの夢を叶える」というボランティア団体の女性が訪れます。しかし、少年の願い事は下品で邪悪なものばかりで…。
ピール監督とキーの熱演が笑えますが、オチが秀逸です。
無垢であるはずの子どもが不道徳な言動で大人を怯えさせるというテーマは『オーメン』や『エクソシスト』を連想させます。

 

もう一つは「There's a Murderer in the Hall of Mirrors(鏡の部屋に殺人犯がいる)」です。
タイトル通りの作品。キー演じる刑事は、鏡張りの部屋で殺人鬼を追いつめます。どことなくハンニバル・レクターに似た殺人犯は刑事をあざ笑いますが、なんだか詰めが甘くて…という話。
この鏡張りコントは『アス』のオープニングを想起しますね。

 

お気づきかと思いますが、Key & Peeleはホラーテイストの作品が多いです。
恐怖と笑いは紙一重


ジョーダン・ピール監督はリブート版『トワイライト・ゾーン』を手がけることが決まっています。ジョーダン・ピール監督は子どもの頃から『トワイライト・ゾーン』のファンだったそうです。元々ホラー好きなんですね。


また、二人とも黒人であることからアメリカの人種差別を風刺するコントが多いのも特徴です。
おバカさと社会派のバランスが絶妙なコンビなのです。

 

前作『ゲット・アウト』はこの作風を活かし、人種差別そのものを風刺しつつホラーの題材にしてしまった傑作スリラーでした。


同じ題材でもコミカルに演じるとコントになり、シリアスな演出を加えるとホラーになる…そんな絶妙なバランスがジョーダン・ピール監督作品の魅力です。
それでは、新作映画『アス』は一体何を描こうとしたのでしょうか。

 

まずは映画『アス』のあらすじを説明します。※結末に触れていますのでご注意ください。

映画『アス』あらすじ

1986年、チャリティイベント「ハンズ・アクロス・アメリカ」が行われた年。幼いアデレード・ウィルソンは、両親とサンタクルーズ・ビーチの遊園地を訪れます。アデレードはミラーハウスに迷い込み、自分そっくりな少女と出会います。彼女はその後の記憶を失い、トラウマで失語症になっていました。

 

アデレードは成長するにつれ失語症を克服。結婚し、長女ゾーラと長男ジェイソンを授かりました。ときは現在。ウィルソン一家はサンタクルーズの別荘を訪れました。アデレードは子どもの頃の体験を思い出して不安になります。様々な現象がシンクロして、まるでミラーハウスの少女の襲来を予告しているかのようでした。

 

その晩、一家は別荘の外に奇妙な4つの影を発見します。夫のゲイブは彼らを追い払おうとしますが、別荘に侵入されてしまいます。4人はウィルソン家と全く同じ顔をしていました。アデレードと同じ顔を持つ「レッド」は、ゾーラと同じ顔を持つ「アンブラ」、ジェイソンと同じ顔を持つ「プルート」、ゲイブと同じ顔を持つ「アブラハム」を紹介します。彼らはそれぞれ大きなハサミを持っていました。あなたたちは何者?と聞かれたレッドは「私たちはアメリカ人だ」と宣言します。

 

ウィルソン一家はそれぞれドッペルゲンガーたちを倒し、友人のタイラー家の別荘に逃げ込みます。しかしタイラー家はドッペルゲンガーたちによって皆殺しにしていました。ウィルソン一家は死闘の末タイラー家のドッペルゲンガーを倒します。ニュースでは、アメリカ全土でドッペルゲンガーたちによる殺人が起きていると報道されていました。

ウィルソン家はメキシコに亡命しようと車を走らせますが、ビーチにプルートが待ち伏せしていました。咄嗟の機転によりプルートを倒しますが、ジェイソンがレッドに誘拐されます。レッドの後を追ったアデレードは、ミラーホールの地下に巨大な施設を発見します。施設には何羽もの兎たちが放されていました。

 

レッドと対峙したアデレードは真実を聞かされます。ドッペルゲンガーは人間によって生み出された「テザード」と呼ばれるクローンでした。地上の人間たちはテザードを見捨て置き去りにしました。何世代にも渡って地下に閉じ込められたテザードたちは、ただ地上の人間たちの動きを模倣していました。レッドは特別な能力を持つ存在で、テザードたちを率いて地上を侵略しました。

 

アデレードは戦いの末、レッドの息の根を止めました。ジェイソンはロッカーに隠れてその様子を見ていました。アデレードはジェイソンを連れて地上に生還し、無人の救急車に家族を乗せてメキシコへと出発しました。

 

運転しながら、アデレードは1986年に起きたことを思い出しました。本物のアデレードを気絶させ、声帯を傷つけ、地下に置き去りにしたのは自分でした。ドッペルゲンガーアデレードの方だったのです。その頃、報道ヘリコプターは上空から地上を撮影していました。無数のテザードたちが手をつなぎ「ハンズ・アクロス・アメリカ」を作っていました。

 

「ハンズ・アクロス・アメリカ」の説明

1986年5月25日(日)に行われた慈善イベントです。

約650万人が15分間手をつなぎ、米国全体を横断する人間の鎖を作ることを試みました。参加費は10ドルで、収益はホームレスやアフリカの貧困に苦しむ人々を支援する慈善団体に寄付されました。

このイベントは約3,400万ドルを集めましたが、運営費用を差し引いて寄付されたのは約1500万ドルでした。

 

『アス』感想と考察

得体の知れない他者に家を侵略され、乗っ取られる…このお馴染みのテーマを扱ったホラー作品は多々あります。

映画だと『ファニー・ゲーム』や最近だと『ノック・ノック』など。安部公房の『友達』もそんな話だったような。


これは「住処を奪われる」こと人間にとって動物的な、非常に根源的な恐怖だからでしょう。また、住処は人間のアイデンティティと密接に繋がっています。(「ヒルズ族」や「シロガネーゼ」など、人はたびたび住む場所によってラベリングされます。)


「侵略者たち」の物語によって、私たちは住居や肩書に頼っている己のアイデンティティの不確かさを思い知り、恐怖を覚えるのかも知れません。

 

というわけで、『アス』のあらすじを初めて聞いたとき「これは絶対に面白い!」とホラー好きの血が騒ぎました。


監督は前作でアカデミー賞脚本賞を受賞したジョーダン・ピール

主演は『それでも夜は明ける』でアカデミー助演女優賞を受賞したルピタ・ニョンゴと、『ブラックパンサー』のエムバク役で一躍有名になったウィンストン・デューク。実力派の二人が揃っています。


企画が発表された段階から楽しみにしていました。

観た感想は…面白かったのですが、期待したほどの恐怖はなかったです。

 

まず、ドッペルゲンガーの戦闘力が弱い!
もう少しギリギリの接戦にしてほしかったです。せっかく恐ろしい題材なのに、ほとんどのドッペルゲンガーが一撃でダウンしてしまうのが消化不良でした

肉弾戦も、もっと激しいものを期待していました。

まあテザードたちが戦闘訓練など受けているはずないので仕方ないのでしょうが…。

 

ちなみにテザード=the Tetheredは直訳で「つながれた者」という意味です。これは実験体として「(鎖に)つながれた」という意味と、「手をつないだ」という意味をかけたダブルミーニングの可能性があります。彼らは「ハンズ・アクロス・アメリカ」そのものの亡霊なのかもしれません。

 

レッドとアデレードの声が違うのも残念でした。
せっかく同じ顔をしているので、どちらが本物か家族が惑わされる展開があっても良かったと思います。しかし声が違うので「その展開はない」とすぐ分かってしまいました。

 

「コール・ザ・ポリス!(警察呼んで!)」と叫んだらAIがN.W.Aの「ファック・ザ・ポリス」を流しちゃう展開は好きでした。
恐怖と紙一重の笑いを提供するジョーダン・ピール監督らしく、前作よりもジョークが多めのホラーでしたね。

さて考察ですが、『アス』のテーマはズバリアメリカ社会の分断」でしょう。
ジョーダン・ピール監督はプレミア後のQ&Aコーナーで、『アス』はアメリカという国が部外者に対して抱く見当違いの恐怖についての映画だと述べています。


トランプ政権によって、移民排除の傾向が強くなったアメリカ。全米各地で移民を狙った銃乱射事件や、ヘイトクライムが増えています。
アデレードが見つけた地下施設への入り口は、トランプ大統領が建設を目指している「国境の壁」の隠喩ではないかと考察できます。部外者(移民)が自分たちを攻撃するだろうと被害妄想を抱き、「自分たち」と「その他」を分断する精神の象徴です。

 

ウィルソン家とドッペルゲンガーの対立はアメリカ国民の経済的格差」のメタファーでしょう。
ウィルソン一家は比較的裕福な家庭です。別荘を持ち、中古ですがボートを購入する余裕もあります。

アフリカ系アメリカ人はプールがない家が多いため泳げない人が多いのですが、ゲイブは湖を泳いで助かります。このことからも、彼が中流以上の家庭出身であることが分かります。
テザードたちは、中産階級が手を差し伸べようとしない貧困家庭(移民含む)を表しているのではないでしょうか。

 

物語の結末で、アデレードはレッドの命を奪います。レッドの身の上話を聞き、同じ国に生きる仲間として受け入れるという選択肢もあったはずです。しかし、アデレードは彼女を拒絶する道を選びました。
ジョーダン・ピール監督は、こうも語っています。
「私たちが本当に直視しなければならない怪物は、おそらく私たちと同じ顔をしていると(この映画で)提案したかったのです。悪、それは私たち(Us)です」(The Vergeより)


ピール監督が『アス』で本当に描いたモンスターは、苦しむ人々に目を向けず壁を隔てて追い払う、アメリカそのものなのではないでしょうか。
これはアメリカに限ったことではなく、日本を含む格差社会全てに当てはまることでしょう。

 

ラストで印象的に映し出されテザードたちによる「ハンズ・アクロス・アメリカ」は「今こそ80年代の相互扶助の心を取り戻し、手を取り合おう」というジョーダン・ピール監督からのメッセージではないかと思います。

 

恐怖は少なめですが、メッセージ性をかなり前面に押し出している作品でした。

 おわりに

今回はジョーダン・ピール監督のホラー映画『アス』の感想と考察を執筆しました。映画『アス』は『ゲット・アウト』でアカデミー賞を受賞したジョーダン・ピール監督の新作で、アメリカ社会をかなり比喩的に表現した映画でした。本記事で映画『アス』に興味を持たれた方は、是非本編をご覧になって考察してみてくださいね。